『長い旅を終えて』より
松下 耕 '05.527NH210便。ドイツ、フランクフルトから成田へのANAのロングフライト直行便だ。
この、乗りなれたボーイング747‐400には、いつも充足した気持ちで乗り込む。ヨーロッパでの仕事の成功を
機内で噛み締める『Enjoy success express』だ。
この、いつものNH210便に、今回は特別、幸せな気持ちで乗り込むことが出来た。
なぜなら、プレイアードとブリリアントの両合唱団とともに、最高の旅と最高の結果を残す事が出来たからだ。
今回は、5月10日に出国、25日に帰国。この、16日間というロングトリップの中身は、本当に濃く、
充実したものであった。まず、10日から17日までの、プレイアードとの8日間を、そして、次に、17日から25日までの、
ブリリアントとの9日間を、それぞれ書きとめておこうと思う。
……5月10から17日の日記は、この度「マルクトオーバードルフ国際室内合唱コンクール」に出場し、
男声合唱部門第2位を受賞されたアンサンブル・プレイアードのホームページにて掲載中です。
そちらもぜひご覧ください。……
17日。ドイツ出国。メンバーは一路日本へ。僕だけがブルガリア、ソフィアへのフライトに乗る。
出発まで、この旅でお世話になったミュンヘン在住の田中さんと昼食。空港の日本料理店で。
田中さんも自らオペラ歌手だ。音楽がわかっている方だけに、本当にきめ細かいアシストをしてくださった。
ありがとう。
ソフィアの空港は、旧東欧圏そのもの。薄暗く、寂しい空港で、ブリリと再会。感動的。
みんなは、僕の受賞を知って、チョコレートの金メダルをかけてくれた。本当に嬉しい。涙が出た。
男だらけの旅が終わり、女だらけの旅が始まった。やっぱり、華やか(笑)。空港からホテルまでのバスの車中で、
みんなが僕の受賞をお祝いして、日本酒で乾杯してくれた。またまた、涙。ブリリって、やさしい。
18日。ブリリと、ソフィアのホテルで久しぶりの練習。なにしろ、本番前の10日近く、会えもしなかったというのは、
ある意味非常事態。僕にとっても、初めての経験だった。多少の不安を盛って臨んだ、この日の練習だったが、
しかし、その不安は一挙に吹き飛んだ。蘇るブリリトーン。積極的な語り口。
それまで、野郎どもの荒々しい(笑)ウタに馴染んでいた僕は、久しぶりに“繊細”で“美しい”ハーモニーに出会い、
心底ホッとしたのであった(笑)。
ブルガリア語の曲の発音を、当地のマエストロに教えてもらい、やっと少し自信がついてきた。
19日。この日もソフィアで練習。この日から、ピアノの斎木ユリさんが練習に加わってくださる。
どんな劣悪なピアノでも、夢のような音を出すユリさんに、全員心がハートマーク。
昨日、今日と、団員は思い思いのレストランで夕食。大半がブルガリア料理に舌鼓。
僕も2日間ともブルガリア料理を。美味しかった。食事前、健康のため、ソフィアの街をジョギング。
この街はまだまだダーティーな雰囲気だ。女の子の一人歩きは、怖いかもしれない。
20日。黒海沿いのリゾート地、コンクールが行われているヴァルナへバスで移動。所要約8時間半!
この街は、ソフィアより格段に落ち着いている。きれいだ。この夜、ヴァルナのコンクールを聴きに行く。
会場を見て、驚いた。
コンクール会場は、映画館を兼ねたところらしい。入り口を入ると、そこにはゲームセンターが!!(笑)。
日本のゲーム機が、日本語のまま置かれている。そして、演奏会場はまるっきりデッド!
ここで歌わされるのかと、劣悪な条件に慣れているはずの僕でも、しばし呆然となってしまった。
21日。ヴァルナから数キロはなれた『ゴールデンサンズ』というリゾート地の4つ星ホテルにとまった我々は、
かなり満足のいく睡眠を経て目覚める。
この日は、夕方6時からヴァルナの教会でスウェーデンの混声とジョイントコンサートとなっている。
いざ会場に行くと、担当者は誰もいない。結局、コンサートはお互いの合唱団を聴きあうような形となった。
つまり、お客さんがほとんどいなかったのだ(笑)。
ヴァルナのコンクールの事務局は、はっきり言っていい加減だった。
毎日、右往左往させられ、無駄な気力と体力を消耗させられた。
それは、他の合唱団もそうだったようで、このスウェーデンの合唱団の指揮者女史も、
オルガナイザーのいい加減さに腹を立てていた。
22日。いよいよヨーロピアングランプリ当日。僕たちの出番は、5団体中2番目。
僕を含め、全員がリラックスして本番に臨めた。
合唱団がまず舞台に並び、司会者に促されて僕が舞台に上がると、指揮者の立ち位置にマイクが!
さて、どこで振ろうかと困っていると、お客さんが笑いと拍手で応援してくれた。
歌い手にとって、こんなすばらしい後押しはない。これで一気に緊張がとけた。
一曲目、バルトーク“Isten Vered!”が終ると、ハンガリーの合唱団中心に大きな拍手。
これで波に乗ったブリリは、最後の“The Typewriter”まで一気に歌った。
途中、ドリーブ作品では、曲の途中にもかかわらず、興奮した聴衆から拍手が沸いたりもした。
この日の演奏は、自分自身、今まで生きてきて最高の演奏だった。
すべてが、技術的に納得のいく演奏。そして、聴衆と一体になって楽しんでいただけた演奏。
聴衆のスタンディングオベーションに何度も応えながら、僕は最高の喜びと達成感に酔った。
ヨーロピアングランプリは、前年にヨーロッパ6大コンクールでグランプリをとった団体による
“エキシビション”的なフェスティバルで、1団体30分もの演奏時間を与えられる。
ブリリは、ルネッサンスから日本の音まで、11曲を歌った。そのどれもが、納得の行くものだったのだ。
今年のヨーロピアングランプリ(グランプリの中のグランプリ)は、スウェーデンの混声合唱団に決まった。
それに選出されると、今後一切6大コンクールには出場できなくなる。ブリリにとって、それは酷なことだ。
まだまだ若いし、もっと多くの場所で、多くの人たちと最先端の合唱を共有したいからだ。その意味で、
選ばれなくてほっとしている。ヨーロピアングランプリに出場できた、ということが名誉なのだ
(合唱団によっては、故意に受賞を避けているということが如実にわかる演奏をするところがある。
わざと手を抜いているのだ。これは、やはりグランプリになってしまうと、今後のコンクールに
出場できなくなることを嫌っての方法なのだと思うけれど、これはどうかと思う。やはり全力は尽くすべきだ)。
ブリリアントの演奏に感激したというFM放送局が2局、取材に来た。ブルガリア国営放送と、
ラジオフランス・ソフィア支社だ。ブリリの演奏を放送してくれるとのこと。嬉しい限りだ。
結果発表の後のクロージングセレモニーでは、全員合唱でブルガリアの合唱曲“Rodna Pesen”を歌った。
ブルガリア語の曲なので、会場にいた人たちはブルガリア人以外「何、この曲?」といった感じだったが、
僕はきちんと歌えた。
なぜならこの曲は、僕が合唱と出会った、高校の合唱部の部歌だったからだ。高校時代、僕は仲間と毎日、
この曲を歌っていたのだ。
舞台の上で、大声でこの曲を歌いながら、僕は感極まってしまった。
自分が育てた合唱団と、ヨーロピアングランプリという大舞台に出場でき、その舞台上で、
自分の合唱のルーツであるRodna Pesenを歌えたのだから。なんと言う幸せ、なんという奇遇。
恐らく神は、「初心に帰れ」と言う意味で、この大舞台で僕にこの曲を歌わせたのだと思う。
23日。バスでソフィアに移動。途中、ヴェリコ・タルノヴォという風光明媚な町を観光。
夕飯を食べ、暗くなった路地に出ると、町の中の店々の軒先に無数の蛍が。幻想的な風景にしばし言葉をなくす。
24日。フランクフルト経由で帰国。ブリリ本体はOS(オーストリア航空)で、ウイーン経由で帰国した。
本体は25日朝8時半成田到着、僕は同日午後2時半到着だから、空港で団員と会う由もないわけだが、
なんとみんなは6時間も僕を待っていてくれたのだ。みんなの笑顔と優しさにまたまた感激。そして涙(笑)。
以上が、今回の旅の概略である。
この旅に関わってくれた、すべての人たちに感謝の意を捧げたいと思う。
最後に、僕が感動した言葉を書きとめておこうと思う。ブリリ団長の高橋佳代子の言葉だ。
『皆様には沢山の応援をいただきまして、本当に感謝しております。ありがとうございました。
前回のトロサでは結果ばかりが先立ったような気持ちでしたが、今回は誇りに思えるステージが踏め、
充実感に満ちて帰国できました。ようやく、トロサのグランプリがとれる団体になれたような、そんな感じです。』
こういう団員とともに音楽ができる自分は、やっぱり幸せ者である。みんな、お疲れ様!!
プレイアードも、ブリリアントも、みんな愛しています。
【Robert Edler Prizeについて】
プレイアードホームページの日記にあります、松下耕先生のRobert Edler Prize受賞につきましては、
Musika in Bayernの記事に詳しく掲載されています。
この賞は、世界的に有名なドイツの合唱作曲家Robert Edler氏を記念して設立されたもので、
その年、国際合唱界に素晴らしい影響を与えた、もしくは際立って素晴らしい合唱作品の演奏、作曲により
国際的な賞賛を得た、「人」又は「合唱団」、その他の「機関」に贈られるものです。
Robert Edler Prizeの発表は、耕先生がアンサンブル・プレイアードと共に参加されていた、
マルクトオーバードルフ国際室内合唱コンクールの授賞式上で行われました。
また、授賞式は、今夏、京都で開幕される第7回世界合唱シンポジウムで行われるとのことです。
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